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第3回 後編 平井かずみ / フラワースタイリスト

生い立ちから、ひらめくままに走り続けた日々を紹介した前編。可憐な印象ながらも自身を「根っからの体育会系!」と話す平井さんが、フラワースタイリストの枠を飛び越え、前進し続ける原動力とは?

植物を育てると、自分が今、
どの季節を生きているのか実感できる
自然と調和している感覚が
すごく心地いいんです

持ち前のポジティブ精神と行動力で、驚くような速度で生きてきた平井さん。訪れたアトリエにはセージの神聖な香りが漂い、生命力に満ちた花々や鉱物などが飾られ、ゆったりとした時間が流れていた。花と同じように、鉱物は彼女にとって大切なものだそう。

「ある時、なんでこんなに鉱物が好きなんだろうと考えたことがあって。世界や物事って相反するものがひとつの世界を作っているでしょ? 陰と陽、太陽と月、いいこともあれば悪いこともある。両極端なものがあるからこそ、ひとつの世界がある。よくよく考えたら植物と鉱物はそういう関係なんだと思って。

植物は生のものだから上に向かう、鉱物は朽ちたものだから土へ還っていく。花があると心がふわーっと和らぐように、鉱物も部屋に飾ると心がときめくんですよね。成長していくものと、土に還っていくもの。相反するものだけど、同じ世界にいるんだと思ったら、鉱物を好きなことも腑に落ちたんです」

平井さんがものを選ぶ時、大切にしているのは、作り手の背景にある思いやストーリー。

「石の展示会で出会った倉沢さんは、ヒマラヤの麓で水晶を買い付けているのだけど、標本箱を作って展示したり、石との関わり方がとても丁寧。『自分の石も花のように愛でて欲しい』とおっしゃっていて、倉沢さんみたいな方から譲られたいとすごく思ったんです。花の教室に来てくれる方は花が大好きで、きれいなものも大好き。なので、アトリエにも置いています」

前編でも取り上げた自身のオンラインショップ『seed』には、奄美大島の月桃で染色したオーガニックコットンのTシャツや、職人の手仕事による希少な帽子のほか、五感に響くとっておきのアイテムが並ぶ。感性を豊かに育んでくれる植物を日常に取り入れるなら、まずは一輪の花、鉢植えを育ててみるのがおすすめだそう。

「植物はひととの関係性と同じで、大切に接すると、芽吹いて、葉っぱが出て、蕾ができて、花が咲く。それを目の当たりにするだけで楽しいし、励まされることもあって、すごいことだと思うんです。育てるのが大変なら、育ったものを買ってきてもいい。花屋さんで目があった花を一輪買ってみたり、むりなく始めるときっと楽しいですよ」

植物をいちから育てると四季を意識するようになり、自分が今どの季節を生きているのか、自然と分かるようになるという。

「コロナで時間の使い方が変わったとはいえ、日常は慌ただしいでしょう? 暮らしに植物を取り入れることで、ふと足をとめ、気づきを得るきっかけになるといいですね」

上手に花を生けるコツも聞いてみた。

「決まった生け方にとらわれず、自分が今、いつの季節をどう生きているか、そのままの世界を表現したらいい。どういうことかというと、やっぱり春一番は、植物もすごく柔らかくて、背丈も低いから、小さなイメージでちょこちょこって生けてあげると、外の世界とリンクするんです。

夏は葉っぱが大きく、たくさん茂るでしょ? それを大きな器に生けてあげたら、夏の景色と重なって生き生きとしてくる。秋は花や色づいた葉っぱや実もなって、いろんなものが混ざり合う季節。冬は寒いからみんなぎゅーって寄り合うでしょ? だから冬はぎゅーっと生けてあげる。

そんな風に、『自分が今、どの季節を生きているのか』を意識するだけで、生ける花も自ずとわかるようになります。自然界とひとの身体はリンクしているから、四季を感じながら生けるだけで、自然と調和する感覚を味わうことができるんです」

「自分が生きている今」と「生けた花」がリンクする。その神秘的な感覚を知っているから、彼女はどんな時もしなやかに、自分の道を切り開いてこられたのかもしれない。

「なにをみて感動するかって、やっぱり直感だと思うんです。それが直結したときに、気持ちがいいとか、自然と涙が出るなとか、そういう風になる。教室では、『花を生ける時の型ってどういうものですか?』『決まりは何ですか?』と聞かれることが多いけれど、『あなたは今、いつの季節を生きていますか?』と、みんなに想像してもらいながら生けています。やっぱり自分が見て心地いいと思うもので、人は感動するから」

全力で走り続けてきた彼女に、これからどんな暮らしがしたいか尋ねてみた。

「だんだん暮らすことと仕事の境がなくなってきて、時間をもっとゆっくり使いたいと思うようになりました。結局、すべては自分が選んでやってきたこと。でも、もう少し自分ファーストにできるような練習もしています。たとえば、ごはんに誘われたら『本当に今日行きたい? 疲れてない?』と俯瞰して、もうひとりの自分に聞いてみたり(笑)。まわりのひとも、食べるものも、着るものも、いつも自分がご機嫌でいられるように心がけています」

彼女だって落ち込むことはある。そんな時に触れたくなるのが、身近にある自然。

「悩みを声に出すのは苦手なので、コロナが始まった頃は、毎朝2時間くらい散歩をしていました。早朝に散歩すると、とても静かで空気が澄んでいて、『植物たちの世界におじゃまします』という気持ちになります。大好きな欅の木をハグしたり、鳥の声を聞いたり、虫を見たりするだけで、自分はちっぽけだな、大自然に生かされているんだなと気づいて、初心にかえることができるんです」

浴びるだけで気持ちがいい。きらきら輝く朝の木漏れ日は、みんなを元気にする彼女そのものだ。

「最終的には体感に着地したくて。みんながハッピーになる循環を軸に考えると、まずは自分の暮らしを整えることが大事だなと。植物のことを伝えるのが使命だと思っていたけれど、私以外にも伝えてくれる方が今はたくさんいます。『もう大丈夫。これからは、この場所が喜ぶことをしよう』と。このアトリエから楽しさや感動が生まれ、循環するような場所になったら嬉しいです」

以前、「好きを仕事にする」をテーマに高校生に向けて講演をした際、どうしても伝えたかったメッセージがある。

「自分が好きなことを楽しんでいれば、人を妬むこともないし、争いも起こらない。だから、私はフラワースタイリストのために働いているわけではなく、世界平和のために働いているんです」

好きを仕事にする選択が、世界平和につながるかもしれない。なんともユニークな内容で、参加した高校生からは多くの反響があった。

内なる自分の光を見つめ、自然との調和を大切に生きる彼女の神秘的な感性から、どんなものが生まれていくのかますます楽しみだ。

平井かずみ

埼玉県生まれ
東京都在住
フラワースタイリスト

東京・恵比寿のアトリエ『皓shiroi』で開かれている花の教室『木曜会』が大人気。2022年5月より、『宿るものたち』をテーマに3部作続く展示を開催。5/21〜28まで『花と器』をテーマとした平井さんの展示から始まり、6月には木工作家の小山剛さん、9月には版画家の平澤まりこさんへとバトンが繋がれていく。共に自然の営みに気づき、感性の森を育む『seed』のオンラインショップでは、贈りものにも喜ばれる希少なブンタールハットの販売もスタート。必見です。

Photo:Sodai Yokoyama
Edit&Text : Narumi Kuroki (RCKT/Rocket Company*)

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