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第3回 前編 平井かずみ / フラワースタイリスト

ひとりひとりが持っている本質を磨き、みんなが輝ける場所を作りたい。今春、東京・恵比寿でアトリエ『皓shiroi』を始動した平井かずみさん。専業主婦からフラワースタイリストになった冒険心溢れる人生に迫ります。

外に気持ちを向けるのではなく
自分の本質に気持ちを向けて
直感で生きていきたい
そしたら毎日、楽しいでしょ?

3人きょうだいの長女として生まれ育った平井さん。2歳下の双子の弟・妹と共に、子どもの頃は、空き地でごっこ遊びをしたり、はらっぱで草花を摘んだり、自由に好きなことをして育った。

「母は理容師で日曜しか休みがなく、父とよくザリガニ釣りをしたり、夏休みになると母の実家の新潟へ行き、いとこと海や山で真っ黒になるまで遊んでいました。草花を摘んで家で生けたり、父と一緒に庭の手入れをすることもありましたが、大人になって花の仕事に就くとは思ってもいませんでした」

2020年のコロナ禍、世の中のあらゆる物事が滞っていた時期に、「自分のseed(=本質や根源)が花開き、私たちみんなを明るいほうへ導いてくれますように」との願いをこめて、感性の森を育むプロジェクト『seed』を立ち上げ、花のお届け便を開始。

森岡書店とのご縁をきっかけに「今こそ、植物や自然の素晴らしさを届けたい」と、自身で企画・撮影した花のタブロイド『seed of life』も制作した。花の教室で20年近くお世話になっていた那須塩原の花農家・池田展康さんの畑を訪れ、撮影した花々の写真からは、ページをめくるたびに生命の息吹が伝わってくる。

「アメリカの海洋生物学者、レイチェル・カーソンの著書『センス・オブ・ワンダー』が大好きで。「少しのお金があったら、大人は虫眼鏡を買いなさい」という一節をヒントにiPhoneにマクロレンズを付けて花を撮影したら、まさに虫眼鏡状態だったんです。レンズを通して見た花の世界はファンタジーそのもの。池田さんの花は、雨に打たれ、風に吹かれ、無農薬の路地栽培で育っている。そうやって植物に寄り添い、育んでいる花畑の美しさを届けたかった。ありのままに極力近い、花や植物の姿。彼らはこの世界が美しいと知っているから、咲き誇った時だけでなく、朽ちた花々もありのままに生かしているんですよね」

暮らしや働き方が大きく変わる中、これからは、自分に素直に「直感」で生きることが大切で、直感で生きるには五感を磨くことが必要と感じた平井さんは、「みんなの感性がひかり輝き、引き出されるような場所を作りたい」とアトリエ『皓shiroi』もオープン。

「思い立ったら吉日! 来年はなにを思っているかわからないから、すぐ行動します。」
と笑顔で潔く話す彼女が花の仕事に関わり始めたのは、20年以上前に遡る。

最初は、映画配給会社の総務部で働いていたが、自分も何かを生み出す仕事がしたい、とインテリアスタイリストの夜間の専門学校に通い始めた。25歳で園芸にはまり、植物の仕事に興味を持つように。通っていた花屋さんが「ベランダガーデニングですごいひとがいる」と紹介してくれて、その頃にTVの取材を受けたこともあったそう。インテリアスタイリストの勉強もしていたので雑貨屋で働こうと面接を受けたら、それは雑貨屋ではなく家具屋だった。

「家具の知識がなかったので、「インテリアには観葉植物が欠かせません」と熱弁したら採用されて。そこで新店立ち上げのオープニングスタッフとして、たくさんのことを経験させていただきました。錚々たるデザイナーが作ったものに触れる機会も多く、いろいろな方々が出入りしていたので、すごく勉強になりましたね」

一方、自宅のベランダガーデニングにもどんどんのめり込み、平井さんの花との関わりは深まっていく。インテリアショップで5年ほど働いた後、花の生け込みに来てくれていた方のお手伝いがきっかけで、少しずつ花の仕事が始まっていった。

またその頃、犬を飼い始めたので、カフェで店番をしながら犬のグッズ屋さんも手伝っていたら、店の方から「平井さん、いつも楽しそうだから、ここでランチ付きの花の教室をやってくれない?」と声がかかる。

「花の仕事は始めたばかりだから、とお断りしたのですが何度も声をかけてくださって。『花の生け方を教えることはできないけど、みんなと楽しむことならできる』と思って始めてみました」

最初は3人ほどで始めた教室も、花の楽しさを広めたい一心で続けていたら、その場所ではおさまらないほど参加者が増え、自由が丘で花の教室を開くカフェをオープンすることに。

「その頃から、毎月100名以上の方に参加してもらえるようになっていました。池田さんが自然栽培で一生懸命に育てた植物を知ってもらいながら、自分が好きな花の仕事も循環し始めて、すごく嬉しかったのを覚えています」

気づけば花の教室を開き、雑誌の連載、著書の出版、虎ノ門ヒルズ『フラワーマーケット』の監修、ラジオ・TV出演など、活躍の場は瞬く間に広がっていった。明るくまっさらな気持ちで走り続けると、いつの間にか苦難も乗り越え、自分が行きたい場所に辿り着けるのかもしれない。

「料理って、料理の作り方を知りたいわけじゃなくて、おいしいものを食べたいから作るでしょ? 花も生け方ではなく、そこに花があるだけで幸せだよっていうのを伝えたくて。花は太陽に向かって伸びるから、自分が太陽になったつもりで、右かなと思えば右。左だと思えば左へ。かわいいね、かわいいねって話しかけながら、ありのままの美しさを生かすことができたらいいなと思っています」

平井かずみ

埼玉県生まれ
東京都在住
フラワースタイリスト

東京・恵比寿のアトリエ『皓shiroi』で開かれている花の教室『木曜会』が大人気。2022年5月より、『宿るものたち』をテーマに3部作続く展示を開催。5/21〜28まで『花と器』をテーマとした平井さんの展示から始まり、6月には木工作家の小山剛さん、9月には版画家の平澤まりこさんへとバトンが繋がれていく。共に自然の営みに気づき、感性の森を育む『seed』のオンラインショップでは、贈りものにも喜ばれる希少なブンタールハットの販売もスタート。必見です。

Photo:Sodai Yokoyama
Edit&Text : Narumi Kuroki (RCKT/Rocket Company*)

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