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第1回 前編 たかはしよしこ / 料理家

食に魅了された料理家のたかはしよしこさん。
東京から移住した北海道の美瑛町で、今夏、新たな食の広場『SSAW BIEI』を開店。
大自然の恵みとともに料理を作り続ける、おいしい記憶の根っこにあるものとは?

食には喜びがいっぱい詰まっていて
日々積み重なっていく
その、ささやかな感動と
愛おしい瞬間を届けたい

彼女の瞳は、まるで少女のように、きらきらと輝いている。それはきっと、何気ない日々の中で、 瞬間瞬間を懸命に生きていて、その小さな感動を大切に暮らしているひとだから。

「4人姉弟の3番目。家族が多かったので、小学生の頃、忙しい両親の気を引きたくて、料理を作り始めました。私が料理をするとすごく喜んでくれたのが、嬉しくて。

ある日、母の友人が作ってくれたチーズケーキがおいしすぎて、レシピを教えてもらったら、お菓子作りが楽しくなり、誕生日に料理本とミキサーを買ってもらったんです。そうしたら、作るのがますます好きになりました」

小さい頃の夢は、大の仲良しだった上のお姉さんと店を開くこと。でも、料理を職にしたいとは考えておらず、想いを巡らせていたのは、床屋さんや、アイスクリーム屋さん、家具屋さんなど。 大人になってからも、お姉さんとはいろんな夢を語り合い、手紙の交換が続いていた。

そんななか、家具が好きだった20代前半、インテリアの世界を志し、上京。勤めていたインテリアショップの恩師から、少しの間、飲食店でのアルバイトを頼まれたことがきっかけで、料理の世界へ飛びこむことに。

「初めて料理を仕事にしたら、すごく楽しくて。やっぱり自分は料理が好きなんだ、と。その後、またインテリア業界で2年間働いたのですが、料理がしたくて、うずうずして。師匠に打ち明けたら、『天職に出会ったね』と。そこが人生の分かれ目だったのかも」

料理ではない道を経験したおかげで、何がやりたいのか、本当に好きなものは何なのか、自分の進む方向がはっきりと見えた。

「それから30歳頃まで、迷いはないけど仕事もお金もない(笑)。そんな簡単に上手くはいかないから、ずっと悩んだりして、しんどかったです。でも、その経験を積んだからこそ、歳を重ねるごとに解放されていった。

実際にやってみて分かるタイプなんです。とくに私は、ふわーっとしてるから。あれも好き、これも好きってなりながら、実際に経験して、自分と向き合うことで、本当に好きなことが見えてきました。

料理って、作っても作っても食べて消えてしまう。毎日のことだから、終わりが一生なくて本当に大変なんだけど、作ったものをみんなで食べて「ああ、おいしかった」と満たされる。その瞬間が愛おしくて、毎日の生活が潤うし、豊かになる。だから結局は、その瞬間、瞬間を私は生きているのかも」

日に日に料理への探究心は高まり、仕事でもプライベートでも、彼女の暮らしの柱は食となった。

「食には嬉しいことがいっぱい詰まっていて、それが毎日積み重なっていく。だからもう、食の仕事は辞められない(笑)。結局、料理が好きだった子どもの頃の自分に戻っているんです。

食べる空間には、大好きなインテリアも混ざってくるし、そこにひととの会話やコミュニケーションも混ざり、衣食住の全部ひっくるめて、すべてに繋がる。だから、これだ!と思ったのかも」


たかはしよしこ

1979年兵庫県生まれ
北海道・美瑛町在住
料理家

生産者と食べるひとの架け橋になることが信条。世界中、東西南北のさまざまな味の記憶から紡がれる料理は、多くのひとを魅了している。ナッツやスパイスをブレンドした野菜をもりもり食べたくなるオリジナル万能調味料「エジプト塩」は、常備しておくと便利な逸品。手土産としても喜ばれている。

Photo : Kei Maeda
Edit & Text : Narumi Kuroki(RCKT / Rocket Company*)

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